着衣鬼図 (ちゃくいおにず)
僧の衣を着た鬼を描く。さしみを盛った伊万里の皿と酒徳利を前に物思いにふける黒衣の赤鬼。この鬼の鋭くも、どこかすべてを悟ったような表情は、猛虎のごとき勢いで世を駆け抜けた画狂人、百有十歳を画業の完成としていた北斎の人生の終焉を前にした心境を語っているようでもある。北斎の亡くなる前年89歳の作。款記より、酒田(山形県)本間家の一族で北斎の弟子、本間北曜に描き与えられた絵とわかる。なお北曜の日記に本作の制作日の記述があり、その内容とも一致する。山形の池田玄斎の追賛が添えられる。
葛飾北斎(1760~1849)は江戸の生まれ。19 歳のとき浮世絵師・勝川春章に入門、役者絵や戯作の挿絵を描く。次第に狂歌絵本や読本の挿絵画家として名を高め、『富嶽三十六景』で浮世絵における風景画の世界に新境地をひらく。また肉筆画の名手としても知られた。