幽霊図小柄
わずかな月明かりの中に、足のない幽霊が浮かび上がっている。朧銀地に平象嵌された幽霊は、銅や銀など数種の金属が組み合わされ、着物の皺や髪の毛、陰鬱な表情までもが片切彫りで表される。裏面には柳の木が片切彫りされる。長さ10cm未満の小さな小柄の中に、金属のみで夜の空気までもを描くかのような名品。
加納夏雄(1828〜1898)は、幕末明治期の金工界を代表する名工。明治初期まで刀装具を制作し、明治期には初代の帝室技芸員、東京美術学校(現東京藝術大学)教授となり、多くの後進を指導した。写生を重んじ、生き生きとして格調の高い動植物の表現で独自の作風を確立した。